アヒルの火
キャンプの夜。
ダンスの輪の中に入れなくて、
遠くからゆれる影をみていた。
手をつなぎたかったけど、
やっぱりダメ。
汗っかきの水かきと、
唇はとんがりっぱなしだし。
ダンスが終わって、
みんなバラバラになったから、
小さくなった火の前に座った。
酔っ払った先生が来て、
「大事なときにはここじゃなくてハートが燃えるんだ」
って自分の頭と胸を指差した。
しばらくして、
あの子が友達と座った。
大事なときだ。
だけどハートじゃなく頭に血が上った。
頼むから、
こっちを見て、
こっちを見ないで、
と思った。
お願い、
声をかけて、
声をかけないで、
と思った。
僕は何かを思い出したフリをして、
テントに戻った。
背を向けたあの日の火が
今も燃えていた。
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